肝胆膵疾患

膵がん

はじめに

膵臓は膵液と呼ばれる消化酵素を含む液体を分泌し、食物の消化にかかわる臓器です。食後の血糖を下げるインスリンを分泌するのも膵臓の役割です。長さは15cm程度で、場所によって体の右から膵頭部、体部、尾部の3つにわかれます。
膵臓にできるがんのうち、90%以上は膵管の細胞にでき、膵がんとは通常この膵管がんのことを指します。自覚症状としては腹痛(腫瘍によって膵管が閉塞する閉塞性膵炎による)や、体重減少、黄疸(胆管の閉塞による)、糖尿病の悪化(もしくは発症)などがありますが、特異的な症状はありません。早期の場合はほとんどが無症状のため、進行してから発見される方が多いのも特徴です。厚生労働省の報告では、日本で膵がんによって亡くなられる方は毎年約34000人以上です。がんの中では、死亡順位で男性4位、女性で3位(2018年)で年々増加傾向にあります。

2018年の死亡数

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1位 2位 3位 4位 5位
男性 大腸 膵臓 肝臓
女性 大腸 膵臓 乳房
男女計 大腸 膵臓 肝臓
  • 元データ:人口動態統計によるがん死亡データ
  • 参考:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」より

診断・治療の流れ

CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)検査

CT検査はX線を、MRI検査は磁気を利用して、がんの局在、周辺臓器への浸潤、他臓器やリンパ節への転移の有無などを評価することが可能です。PET-CTでは特殊な薬を使うことでがんの転移や再発を見つけることができます。
病期を決定し、ガイドラインに沿って方針を決定します。

治療

膵臓がんの治療の基本は外科的切除ですが、発見時にはすでにがんが進行しており、手術不能であることも少なくありません。

  • 術前化学療法

    手術によって切除可能な膵がんに対しても、手術の前に化学療法を行うことで(これを術前化学療法と呼びます)治療成績が改善する可能性があります。あらかじめ化学療法を行うことによって、がんが小さくなり手術で取り切れる可能性が高まることや、CTなどではわからない微小な転移への治療効果などが期待されています。
    私たちはこのような考えのもと、切除可能な膵がんに対しても術前化学療法を行うことを基本方針としています。

    術前化学療法を行った後、再度画像検査で評価し、腫瘍の状態や遠隔転移の有無を確認します。手術適応に問題となる所見が認められなければ、化学療法終了後から1か月程度を目安に根治手術を予定します。

  • 手術療法

    • 遠隔転移がない
    • 腹膜播種がない
    • 大血管への浸潤がない

    原則として上記すべてを満たす必要があります。これらを1つでも満たさない場合、術後の再発率が高いことが今までの研究で報告されています。

    手術方法

    膵臓がんの手術は、がんの場所によって術式が大きく2つにわかれます。膵頭部に存在する場合(体の右側)は膵頭十二指腸切除術、膵体尾部に存在する場合(体の左側)は膵体尾部切除+脾臓摘出術を行います。

    • 亜全胃温存膵頭十二指腸切除術

      亜全胃温存膵頭十二指腸切除術

    • 膵中央切除術

      膵中央切除術

    • 脾温存膵体尾部切除術

      脾温存膵体尾部切除術

  • 術後補助化学療法

    膵臓がんは早期から周囲に浸潤、転移をしているといわれており、手術のみでは周囲に散らばった微少ながん細胞までは取り除くことができません。そのため、術後落ち着いたところで半年間化学療法を行うのが現在の標準的な治療となっています(これを術後補助化学療法といいます)。術後補助化学療法を行うことで再発率を減少させ、手術の治療効果を向上させることがわかっています。

入院スケジュール
(手術療法の場合)

基本的な入院スケジュールです。患者さんの状態に合わせ予定を変更することがあります。

退院後の生活

体力低下に気をつけましょう

手術後は体力や筋力が落ちてしまうことがあります。散歩する、ストレッチするなど適度に体を動かしましょう。

腸閉塞

おなかが痛い、おなかが張る、吐き気がする、吐いたなどの症状が出たら、腸閉塞かもしれません。原因は傷口やおなかの中の傷に腸が癒着して、腸がつまってしまう(閉塞する)ことで起こります。また消化に悪いものを食べるとそれが詰まって腸閉塞になることがあります。注意が必要な食べ物を以下に挙げますが、これ以外の食べ物でも詰まることがありますし、逆に食べても大丈夫な方もいます。

  • キノコ類
  • わかめなどの海草類
  • イカ、貝
  • 繊維質の多い野菜(ごぼうなど)

原則として入院が必要です。治療は鼻から胃に管を入れたり、絶飲食、点滴が基本ですが、場合によっては緊急手術が必要になることがあります。

傷が痛い、傷から水が浸み出す

これらの症状が出たら傷口の感染(創感染)のことがあります。傷口を洗浄し、抗生剤を投与して治療します。

傷が膨らむ(腹壁瘢痕ヘルニア)

傷口に大きな力がかかると傷を縫った中の糸が切れることがあります。中の糸が切れるとそこに腸がはまって傷口が膨らむ状態になることがあります(腹壁瘢痕ヘルニアと言います)。そのため術後1ヶ月程度は重いものを持ったり、激しい運動はしないようにしてください。

退院後の治療

通院について

退院後もがんの再発がないかを確認するために定期的に通院していただきます。血液検査、CT検査などを行います。3ヶ月に1回程度通院していただき、検査を行います。一般的には術後5年間は通院していただきます。

退院した後に抗がん剤治療を行うことがあります

膵がんの状態によっては、追加で抗がん剤治療をお勧めすることがあります。これを術後補助化学療法といいます。これは再発の可能性が高い方に再発の可能性を下げるために行います。内服薬や点滴による治療があります。術後補助化学療法を行うかどうか、どの薬を使うかなどは患者さん一人一人と相談して決定していきます。

転移、再発が見つかった場合

通院して検査をしていく中で、残念ながらがんの再発・転移が見つかることがあります。治療法としては化学療法や放射線治療を行います。どの治療法にするかは詳しい検査をして、患者さん一人一人と相談して決定していきます。

緩和ケアチームもサポートします

当院には緩和ケアチームがあり、がんによる痛みといった体の症状を和らげるだけでなく、不安なことについても相談することができます。当院では早い段階から緩和ケアチームと連携して、患者さんができるだけ今まで通りの生活を送れるように取り組んでいます。

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